高柳昌行のレギュラーコンサートのひとつである『アナザー・シチュエーション』(1977年9月4日~1984年11月16日、全24回)の最終盤(第20回)に行われた、マス・プロジェクション(集団投射)の方法に基づくライブ演奏の記録。
高柳昌行独特の方法論によるフリージャズの試みであるニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ~ニュー・ディレクション・ユニットのほぼ最終形態にも当たる作品である。ニュー・ディレクション・ユニットは、1977年頃から飯島晃とのツインギターによる編成で活動するようになったが、ここで繰り広げられる高柳/飯島の二台のエレキギターによるノイズの大洪水は、この約一年半後に開始される、ギターの自動演奏機器の開発も交えた高柳のギターソロ即興演奏=アクション・ダイレクトの萌芽を感じさせる。
約40分に及ぶ切れ目のない演奏(ただしCDでは約10分ごとにインデックスを切ってある)は、耳に馴染みのある音階やリズムを一切用いていないが、その音楽的エネルギーの爆発に真摯に耳を傾ければ、山崎弘の何かに取り憑かれたようなドラムの渦とギター二台のノイズの渦の中から聴き手それぞれに“別の響き”が聴こえてくる。聴き手はそこに、この時代(80年代中盤)に芽生えた新しい音楽の美しさを感じ取ることができるはずだ。その点で、ノイズの発生による音楽表現をさらに追求したアクション・ダイレクトへの入門盤としても、一聴に値する作品といえる。 |