今でこそ、ニュー・ディレクション、集団投射/漸次投射、アクション・ダイレクトなどのキーワードとともに日本のフリー・ジャズや実験音楽を牽引したある種の“カリスマ”という見方をされることが多い高柳昌行だが、言うまでもなくその基礎にはジャズ・ギタリストとしての精進があり、活動があり、影響力がある。
本作は1968年に結成されたコンテンポラリー・ジャズ・グループ、高柳昌行ジャズ・コンテンポラリー4の、1969年2月のライブ録音である。1969年といえば、5月には富樫雅彦と組んだグループで録音した『WE NOW CREATE』(富樫雅彦カルテット名義)にて公には初めてフリー・ジャズに取り組み、8月には自身のフリー・ジャズ・グループであるニュー・ディレクションを結成して翌9月にはニュー・ディレクション名義の初録音盤『Independence』を発表した年だ。つまり本作は、高柳昌行がフリー・ジャズに移行していく直前の“ジャズの演奏”の記録ということになる。
本作に収録されたギタリスト今井和雄(高柳昌行に師事)による解説によれば、高柳は「ジャズの最先端であるフリージャズの演奏は、単なる思い付きや情動(エモーション)の発露ではなく、ジャズの歴史を踏まえていなければ成立しないとも考えていた。高柳にとってオーソドックスなジャズのアドリブを追求する事は、新しいジャズを探求する上で必要な作業だった」。その意味で言えば、当時の聴き手としても馴染みのあるような、テーマがありアドリブがあるジャズの演奏という点では表面的な音楽の形態こそこれ以降に展開されるフリー・ジャズ(新しいジャズ)と異なるものの、ニュー・ディレクションが始まる直前の時点で高柳がジャズを(ジャズ・ギターを)どこまで突き詰めていたかがわかる、貴重な記録と言えるだろう。そしてその記録は、ニュー・ディレクション以降の高柳の仕事の聴き方にも新しい視点をもたらすものと言えよう。
なお本作は、高柳昌行の遺した夥しい数のテープの中から昨年発掘されたもの。録音場所や録音時の環境・機材は不明だが、もともと録音状態がよく、またマスタリングにも念を入れたことで、各楽器の演奏の表情まで明確に聴き取ることができる仕上がりになっている。(青木 修) |