ジミー・ジュフリー・トリオは、1960年代に入ってメンバーをポール・ブレイ(ピアノ)とスティーヴ・スワロウ(ベース)に入れ替え、フランス印象派に近い4度堆積和音や全音階をはじめとしたクラシック近代音楽と、モダン・ジャズの特色でもあるツーファーブ・モーションから離れた苛烈な即興演奏、このふたつを融合した音楽を完成させた。その成果はヴァーヴからリリースされた『Thesis』『Fusion』というふたつのアルバムに結実した。この2作はのちにECMから『Jimmy Giuffre 3, 1961』として復刻されたが、その際に1曲がテイク差し替え(TRUDGIN’)、1曲がカット(USED TO BE)となった。
「ジャズを続けるかクラシックの作曲家になるか迷った」と考えていたジミー・ジュフリーが生み出したこの音楽は、アメリカよりヨーロッパで評判となって欧州公演が行われ、そのいくつかの録音が残った。その代表が92年と93年にhat ART から発掘音源としてリリースされた『Emphasis, Stuttgart 1961』と『Flight, Bremen 1961』。いずれも61年のドイツ公演の記録で、時としてスタジオ録音をはるかに凌ぐ作曲と即興演奏が混然一体となった驚異の演奏を聴くことが出来る。
この2つのドイツ公演を2枚組にして復刻したものが本作。注目は、ブレーメン公演にこれまで未発表だった5曲が追加された事と、ECM盤の復刻時に差し替え/カットされた2曲が追加された事。もしジャズがアメリカン・ソングフォームのポピュラー音楽でなく、クラシックが機能和声音楽の外に飛び出した瞬間の音楽をそのまま引き継いでいたら、恐らくこういう音楽になったのではないだろうか。歴史に残すべきライヴ演奏の完全版となる素晴らしい復刻。 (近藤秀秋、2022) |