エレーヌ ブラッサン Helene Breschand はフランスの即興音楽シーンで活躍する女性ハープ奏者で、クラシックの名ハープ奏者であるジャメに師事した事もある。この作品は、BERIO "SEQUENZA・"(SEQUENZA はこの2番だけがハープ曲)、平義久 "SUBLIMATION"、CAGE "IN A LANDSCAPE"、などの現代曲と、自身のインプロヴィゼーションがほぼ交互に配置されてる構成となっている。これは、優れた奏者が一様に行き着く所の視点ではないかと思える。演奏という所作と作曲という所作の両極を同時に満たさんとする試みは、ほとんど全ての音楽で試みられている行為と思うが、それを成立させることの出来た音楽は極めて少なく、またこれが達成された所からが本当の音楽であるように思う。この作品では即興パートは勿論、楽曲の演奏をする瞬間ですら、その音響の全てがその瞬間に生み出されているかのように生々しく、力強く響く。同様に、"Improvisation" と表記された3つの演奏も、その全てが作曲作同様の見事な構造を獲得している。ハープという楽器楽器が、ピアノと同様に1音それぞれに弦が割り振られているという構造を見事に使い切っており、曖昧なままに発音される音など微塵もない。自身の音楽をハープという楽器の上で見事に具象させている点も、演奏家として見事である。1999年録音、推薦。 (近藤秀秋、「G-Modern」26号)
*平義久は作曲家としての生涯の殆どをパリで送った作曲家で、メシアンやディティユに師事した。2005年3月に他界。