60年代ニューヨークのフリージャズシーンの中心のひとり、ノアハワード。ハワード渡欧後の空白の70年代を埋める、貴重かつ苛烈な記録。ハン ベニンクら参加。

　ノア・ハワードは60年代中盤のアメリカにおけるフリージャズ黎明期の巨人のひとり。アフロ・アメリカンによるフリージャズを記録したESP、FREEDOMといった名門レーベルのいずれもが、彼を録音してきた。しかし、70年代に渡欧して以降のハワードの録音は日本では殆ど紹介されておらず、本盤はハワード空白の70年代を埋める重要な録音である。渡仏後にハワードが立ち上げた自主レーベル”alt sax” よりリリースされた『Patterns』に、未発表録音『Message to South Africa』を追加収録してのCD化。”Patterns” は、オランダのフリー界がハワードを招聘した際の録音で、ラジオ局のコミッションによる。ハン・ベニンク、ミシャ・メンゲルベルクといったオランダを代表する演奏家が参加し、ハワードのデザインする演奏を組み上げていく。”Message to South Africa” は、アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国の民権運動家スティーヴ・ビコが拷問死させられた週にパリで書かれ、南アフリカ出身の演奏家を含めて演奏された。強張って鳴り響く無骨なたたずまいの音響に、60年代から70年代という人種差別国家アメリカを飛び出して移民するアフロ・アメリカンの視点が覆い被さる。それは、アフロ・アメリカンの民俗音楽フリージャズが世界化していく過程の記録でもある。