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日本の現代音楽の作曲家では最も演奏機会が多いと思われる武満徹の作品だが、非常に空間性の強い作風を持つものが多いだけに、演奏や録音状況によってその印象は相当に違って聞こえる。本作品はピアニスト／作曲家の藤井一興（ふじいかずおき）による82年録音の武満のピアノ作品集。その演奏はとにかく素晴らしく、この録音を初めて聴いた時の感銘はいまだに忘れられない。音楽というのは作曲作ですら、音化された瞬間から作曲者の手の内にあるものだけではなくなるものだし、演奏もまた然りだろう。故に、作曲家の意図を抽出する事以上に、フォルムが持ってしまう意味性に適うより良い形を、より広い視点から深化させる事が（批判はある程度受けるだろうが）より良いサウンドを獲得する事になるのではないかと個人的には考えるが、この作品で聴かれる藤井の演奏は、ハーモニクスや減五度の音程の多用などに見られる武満作品の響きの美学に見事に焦点を当てた美しい演奏と思う。なお、藤井は作曲をメシアンなどに師事し、数々のピアノコンクールでの優勝経験を持つピアニスト／作曲家で、クセナキス、メシアン、武満などの現代作品の演奏に於て特に評価が高い。「雨の木素描」の初演は彼であったし、また本作録音時に於て「２つのレント」は唯一の録音であった。　（近藤秀秋、「G-Modern」27号）