英「WIRE]誌などで年間アワードを獲得した日本の集団即興グループEXIAS-J のリーダー/ギタリストの近藤秀秋の初のソロ名義作品。10弦ガットギターによる演奏(ライブ演奏である高柳昌行の楽曲1曲を除く)。内容は、アカデミックな現代ギター作曲界の現状を見据えて書かれたソロギターの為の完全な作曲作、オスティナートといった大楽節を作曲した上で演奏をモード即興に拠る半作曲/半即興作、完全な即興から確定的な楽曲を作りだす民族主義的な演奏、高柳昌行の楽曲を用いたうえで演奏の強度に撤したライブ演奏、などからなり、現代作曲の前線をEXIAS-J クラスの苛烈な演奏技術をもって10弦ギター上に展開していく。
Bishop Records主宰者として坪川真理子らのCD制作を手がけてきた近藤は、自身も優れたギタリスト・即興演奏家として知られており、海外での評価も高い。これまで主に即興演奏集団「EXIAS-J」名義でアルバムを発表してきたが、満を持して初のソロ作品となる本作を発表した。アルバムタイトルが示す通り、各曲は明確に構造が提示されており、「フリージャズ」よりはむしろ「現代音楽」のイメージ。広義の「ギター音楽」の可能性を追究しようとする意欲が強く感じられる。時に暴走寸前のエネルギーを感じさせつつ、決してアンサンブルのバランスを崩さないのは際立った美点だろう。ラストの<Quantification>の静的な美しさも特筆に値する。(徳永伸一郎、「現代ギター」2007.9号)
現代音楽やジャズ、和楽まで吸収したような曲だが、むろん頭デッカチではなく、近藤のヴァイブレーションが伝わってくる。情感豊かで艶っぽい音の動きにハッとさせられ、触れたら肌が切れそうなほど緊迫した空気の中で息づく、しっとりとした歌心に息を呑むばかりだ。近藤が一番好きだという高柳昌行の曲「Herdman's Pipe of Spain」のカヴァーも、アコースティックな響きで加速。デカいボリュームで体感するとたまらない音だが、小さい音量で聴いてもダイナミックで、弦の震えが見えてきそうなほどこまやかな音の仕上がりも素晴らしい。(行川和彦、「ミュージック・マガジン」2007.8号)
10弦のガットギターを弾く近藤の演奏は,エグベルト・ジスモンチのように,端正で,正確無比でありながら,同時にカラフルで,ダンサブルな輝きを放っている。(中略)現代音楽のようにも,古典的なギター曲のようにも響くガット・サウンドの不思議な浮遊感覚は,あらゆるギター・ジャンルに精通している近藤の苦心のたまものだろう。決して多くを語らない彼の創造の秘密は,即興音楽を含む複数のジャンルの狭間で,どうバランスをとって安定するのか,またそのバランス感覚を,どうしたら演奏にまで持っていけるのか,ということではなかったかと思う。演奏のドライヴ感は,スウィング感に支配されたジャズ的なものを捨て,より加速力のあるスパニッシュ・ギターの即興性に置き換えられている。まるで世界中の音楽から雑多な部分品をかき集め,時間をかけて精緻に組みあげられた音楽機械のように,それは万能であり,同時に怪物的である。(北里義之、「web 音場録」、2007.9.17号)
日本の代表的な集団即興グループEXIAS-J を主宰するギタリスト近藤秀秋の第1作。10弦ギターのソロとフルート、ベース、打楽器による演奏。そして、自らの楽曲と、さらにその演奏に仕組まれた規制や反規制、ここにはさまざまな音の層が重なり、近藤の関心の広がりが、そのまま映し出されている。(中略)この広がりは、根源的な問題に目を逸らさないこの音楽家のスタンスそのものなのだ。(青木和富、「CDジャーナル」2007.7号 注目盤) |