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先行した『またの日の夢物語』が、最初期における裸形の野生を具現せしめていたのに対し、それから約１年後に録音された本作は、今まで出された彼のどの音源とも違った、牧歌的ともいえる暖かい優しさに溢れた作品だ。何かと言うと殺気とか狂気とかの決まり文句を並べて悦に入っている、思考回路の摩滅した連中の足元を根底から揺さぶる響きどもがここにある。後々に阿部の音楽を語る上で、絶対に外せない一枚となることは間違いない。狂信的な信徒となるつもりはさらさらないが、こうまで素晴しいと冷静さを失ってしまう自分を抑えることができないのも事実だ。楽器は全てアルトサックス。もしもソフト・サウンドという言葉を肯定的に用いるならば、この音こそそれに相応しい。アプローチの手法はどうあれ、全ての傑作は結局のところ歌なのだということを、この遅れてきたCDは証明している。（沖楯男、「G-Modern」vol.6）